約 1,207,366 件
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/561.html
「せつな、大丈夫?」 「ええ...何とか」 玄関の掃除をしていたせつなが 天井のすすを取るために登っていた 脚立から、落ちた。 幸い、お尻から落ちたので 湿布を貼る程度で済んだ。 「こういうときに、アカルンで移動して 守ってくれればいいのに...」 つい、あたしは愚痴ってしまった。 「キィ?」 少しムッとしたような、アカルンの声が 聞こえたような気がした。 掃除も済み、あたしの部屋で せつなとお茶を飲む。 窓の外に、綿のような雪が ちらつき始めた。 「わあ、寒そうだね...」 「ええ...でも、ラブと居ると暖かいわ」 「せつな...」 せつなの髪に触れる。 さらりと、指が通る。 せつなが、微笑みながら こっちを向く。 せつなが、目を閉じる。 あたしだけの、せつな。 唇を、寄せる。 空を切った。 「あれ...?」 ドアが開き、 せつなが入ってきた。 「ごめんなさい、ラブ...」 「どうしたの?」 「急に、私の部屋に移動しちゃって...」 「アカルン?」 「そうみたい...」 あたしが、あんなこと言ったから 怒ってるのかな。 「ラブ、せっちゃん、ごはんよ!」 「はーい」 おあずけ。 体が火照っているのは、 お風呂上がりだから、だけじゃない。 夕ご飯に、うなぎをたくさん 食べたせいか、妙に...その...。 ドアがノックされ、枕を持った せつなが入ってきた。 「あの...ね、ラブ...」 せつなの様子を見れば、 何が言いたいのか、わかる。 真っ赤に火照った顔。 もじもじと動く、足。 「あたしも、待ってたよ...」 せつなが、あたしの隣に座り 頭をもたせかける。 洗い立ての髪の、いい匂い。 胸いっぱいに、吸い込む。 両肩を軽く押すと、せつなは パタンと、ベッドに仰向けになった。 潤んだ、せつなの瞳。 両手を拡げるせつなに、 吸い込まれる。 布団に、顔から着地した。 ひとりで、うつぶせに寝ている。 「もう!どして?」 部屋の向こうから、 かすかに聞こえる。 また、おあずけ。 体が疼く。 我慢できない。 布団の中で、 パジャマを全部脱ぐ。 胸に、手を触れる。 想像する。 あたしの乳首を可愛がる、 せつなの人差し指。 もう片方の乳首の上で、 細かく動く、せつなの舌先。 「ラブ、ここ好きよね...」 手を、下に降ろす。 すでに、滴り落ちそうなほど あふれている。 せつなの吐息が、かかる。 敏感な部分を、吸われる。 やさしく這い回る、せつなの舌。 あふれるそばから、せつなに すくい取られる。 指が、入る。 浅く、深く。 ゆっくり、速く。 あたしの高まりに合わせるように、 中をかき回し、上の壁を擦る。 耳元で、ささやかれる。 「ラブ...大好き...」 体の奥から、刺激が 突き上がってきた。 腰が浮く。 突然、横に人影が現れた。 せつな。 あたしと同じように、裸で 自分を慰めている。 「えっ?せつな?何で...あああっ!」 「ちょっと!やだ!どしてラブが...あああん!」 同時に、果てた。 見られながら。 見ながら。 背を向けて、寝転がる。 顔から火が出るほど 恥ずかしい。 「せつな...見たよね」 「ええ...私のも...よね」 「はしたない、よね...」 「私こそ...」 「でも...せつなのこと考えたら、あたし...」 「私だって...ラブのこと考えながら...」 向かい合う。 「ふたりが、いいよ...」 せつながうなずき、 目を閉じる。 再び、体が熱くなる。 きっと、アカルンの機嫌が直って あたしたちを引き寄せてくれたんだ。 やっとだね、せつな。 手を伸ばし、唇を寄せる。 手も、唇も、 空を切った。 また、おあずけ。 「もーう!アカルン! 機嫌直してよお!」 ふたつの部屋から、 悲痛な訴えが同時に聞こえた。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/163.html
「現(うつつ)は夢よりも甘し」/黒ブキ◆lg0Ts41PPY するりと暗闇に飲み込まれる様に意識が途切れる。 ぽっかりと浮かび上がる様に暗闇から意識が吐き出される。 眠りとはそう言うものだとずっと思ってきた。 訓練、任務、分刻みに決まりきった日常。鉛の様に重くなった体ごと 意識が泥沼に沈んで行く、ただ脳と身体から疲労を追い出す為の作業の 一つに過ぎなかった、深く、短く、暗い眠り。 中途半端に浅い眠りはいつだって碌なものじゃなかった。 悪夢は目覚めても、現実はその続きでしかなく、多少なりともマシな夢は、 目覚めた後に砂を噛む様な不快感を、渇いた口に張り付かせるだけだから。 だから、夢など見ないよう、精一杯体を痛め付ける。 毎日、毎日、他には何も考えずに済むように。 目を閉じれば、一瞬で闇が次の朝まで連れて行ってくれるように。 … ………… …………………… 「あ、ごめん。起こしちゃった?」 目覚めると、ふわふわした明るい色の髪が顔のすぐ横で揺れていた。 せつなの手を握ったり、自分の手のひらと重ねて大きさ比べをしたりして、 ラブが遊んでいる。 「せつなの手、ちっちゃくてカワイイ」 「…大きさなんて殆ど変わらないじゃない」 ラブの柔らかな指で手を弄ばれる。 温かな血の通った感触。また眠りに誘われそうだった。 その温かく柔らかな手が頬を撫で、額に触れて来る。 手をどけた後は、コツンと自分の額をくっつける。 「うん、熱は下がったね」 よかったよかった。そう、微笑むラブにせつなは苦笑いを返す。 手のひらで熱を見たなら、わざわざ額までくっつける必要は無いだろうに。 「ずっと一緒に寝てたの?駄目じゃない、移るわよ」 そう言うと、ラブは少し驚いた様に目を見開くと、思い切り抱き付いて ぐりぐりと頬を擦り寄せる。 「こらこら…」 「だってぇ、せつなホカホカで気持ち良かったんだもん」 「もう。私はカイロ代わり?」 「ウソウソ!いいじゃん、風邪でも一緒に寝たいんだもん!」 「…だから、移ったら困るでしょ?」 「移ったっていいよーだ!」 だって、そしたらせつなが看病してくれるでしょ? 「…移しっこしてどうするのよ?」 「いいじゃん!幸せゲットだよ?!」 眠っている間、何か夢を見ていた。熱のせいか、あまり良い夢では無かった気がする。よく思い出せない。 けれど、そんな事はどうでもよかった。 悪夢なんて、目覚めてしまえばそれでお仕舞い。 幸せな夢も、目覚めた後で辛くはならない。 今は現実の方がずっと豊かな彩りに溢れているから。 もうどんな夢も恐くない。目が覚めればあなたがいてくれる。 「…朝食、私が作ろうかな」 「駄目!」 「どして?」 「病み上がりって言葉知らないの?今日一日は熱がなくてもお利口にね」 「はぁい…」 温もりに包まれていると、また眠気に誘われて来た。 微睡み出したせつなを見て、ラブは優しく囁く。 「もう少し寝てなよ。朝ごはん、出来たら起こすから」 「…………ん………」 ラブの短い言葉も聞き終わらない内に、とろとろと意識が揺らめきだす。 愛しい温もりが側にあれば、眠る事はこんなにも甘やかなものなのだ。 ラブはせつなが完全に眠りに落ちるのを見計らい、そっとベッドを抜け出す。 起こさぬ様に、頬と唇を軽く啄んでから。 せつなが、夢の中でも幸せでありますように。 そして、目覚めた後はもっと幸せでありますように。 end
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1113.html
バザーの日の夜ラブ達は今度こそパジャマパーティーのリベンジをした。 その日の夜、ラブの部屋に4人で雑魚寝をした。 「ラブ、起きてる?」 パジャマパーティーが終わって、他のメンバーが寝静まった後せつながラブに声をかける。 「ううん、まだ起きてるよ。なんだか眠れなくて。」 えへへと笑ってラブが少し身を起して答える。 「トイマジン、きっと幸せになれるよね。」 「あったり前だよ、これからトイマジンは幸せになって行くんだから。」 「そうね、そしてトイマジン以外の呼び方で呼べるようになりたいわね。私がイースじゃなくてパッションになったように。」 「せつな…」 少し物思いにふけるような少し悲しそうな口調で言うせつなを心配そうに見つめるラブ 「本当はね、ラブがうさぴょんを見て攻撃をためらった時、本当は私も攻撃しようか迷ってたの」 「せつなも?」 「そう、トイマジンが本当は攻撃したいんじゃなくて、助けを求めてるように見えて、昔の自分と重なったから……」 「せつな…」 昔の自分というのはイースだったころ、やみくもに身を削ってまでこの世界の人間と戦おうとしてきた時の事だ 「本当は人間の事を愛しているのに、自分への選択肢がそれしかないような気になって無理して悪事を働いてるように見えた。」 「だからラブがトイマジンを攻撃出来ないって言って座り込んだ時、不謹慎だけど少し嬉しく感じたの。」 「でもせつなは他の2人に続いてすぐ攻撃したよね?」 「ええ、昔の自分とかぶってたからこそ戦う事を選んだの。」 少し真剣な口調でせつなは続ける。 「あの頃の自分とかぶったからこそ、甘えないで!あなたのやってる事は間違ってるわって戒めたかった。」 「ははは、せつなはスパルタだねー。」 「もう一つはやっぱり戦う事で彼を助けたかった。ラブが私にしてくれたみたいに…」 「せつな…」 「そして、ラブは彼を救ってくれた」 そう……ラブは苦しんでる人や辛い人を見るとほっとけない子だ。 たとえそれがボロボロになって捨てられた人形であっても…… そう、自分はボロボロになって捨てられた人形と同じなのかな…… そんな事を考えてるせつなの心を見透かしたのかラブが答える。 「言っておくけど、せつなもうさぴょんもトイマジンもみんな大切な友達なんだからね。」 「ラブ……そうねごめんなさい、うさぴょん達に失礼な事考えてたわ…」 「うさぴょん達だけじゃなくて自分にもだよ。」 本当にラブは色々な人の事を考えてくれる。 自分はプリキュアになって日が浅いけど、ラブみたいにみんなを救えるプリキュアになりたい。 「それにー、えいっ」 不意を突いたかのようにラブはせつなに抱きつく。 「ちょっとラブ…」 「うーんこの抱き心地はやっぱりうさぴょんに匹敵するものがあるよー。」 「も、もうそんな所で褒められても嬉しくないわよ。」 そういいながらも安らいだ表情をするせつな。 この温もりを味わったトイマジンならこの後の引き取り先でも幸せになれる気がする。 そんな気がした。 「私もラブみたいにキュアエンジェルになれるといいな…。」 「なれるよ、みんな。もちろんブッキーも美希たんも」 「でも美希の翼だけメカみたいな翼だったりして。」 「まっさかー。」 その日はそんなたわいもない話をしながら夜が更けていった。
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1055.html
【9月21日】 『自分にはないもの』 サウラー 「今度、ウエスターと二人で旅行に行ってみようかな? あ、いや、やはりやめておこう」 ウエスター「聞こえたぞ! サウラー。俺ならいつでもオーケーだ。何なら今から行くか?」 サウラー 「耳がいいなら最後まで聞いたらどうだ! やめておこうと言ったんだ」 ウエスター「フン、そんなこと言って、実は俺がうらやましいのだろう。素直じゃない奴だ」 サウラー 「君の目には、世界はどう映っているのか。それを知りたいと思うことはあるよ」 【9月22日】 『月とうさぎ』 祈里 「今夜は十五夜。きれいな月が見れるといいなぁ」 ラブ 「うさぎ うさぎ なに見てはねる~♪ 十五夜お月さま 見てはねる~♪」 美希 「そういえば、そんな唄もあったわね」 せつな「うさぎは月に憧れてるのね」 祈里 「うさぎに例えた、人間が憧れてるんだと思う」 せつな「人が直接見ることのできる、一番大きな星なのよね」 ラブ 「そっか~、太陽はまぶしくて見れないよね」 祈里 「月は、太陽の光を受けて夜空を照らしてるのよ」 せつな「私も月のように、ラブの……」 ラブ 「せつな、何か言った?」 せつな「月が綺麗ね、って言ったのよ」 【9月23日】 『あなたはどんな秋?』 クローバー「今日は秋分の日!」 祈里 「秋ってなんだか、ロマンチックな季節よね~」 ラブ 「食欲の秋! スポーツの秋! 行楽の秋! 楽しいことがいっぱいだしね」 祈里 「もう、ラブちゃんムードぶちこわし」 美希 「でも、~の春とか夏とか冬とか言わないわよね。どうして秋だけそんな呼び方するのかしら?」 ラブ 「そっか。水泳の夏とか、スキーの冬とか、言わないよね」 せつな「どことなく悲しい季節を、楽しく過ごすために作られた言葉なのかもしれないわね」 【9月24日】 『とっておきのスペシャルドリンク』 美希 「アタシが作る、スペシャルドリンクは美容にとってもいいのよ」 祈里 「わたしも栄養ドリンクはよく作るのよ。美希ちゃんのレシピ興味あるな」 美希 「大して珍しいものは使ってないわよ?」 祈里 「マムシとか、スッポンとか、ヤツメウナギとか?」 美希 「キャアッ! ないない、そんなの入れないわよ!」 祈里 「じゃあ、ムカデとか、ヤモリとか、ミミズとか?」 美希 「ゴメン、聞いてるだけで気持ち悪くなってきたわ……」 祈里 「冗談よ。今度、一緒に作りましょう」 美希 「いいけど、家から変なモノ持ってこないでね」 【9月25日】 『四つ葉を見つけた子ですから』 せつな「今日はきのこ狩りに行くの。私、精一杯がんばるわ!」 ラブ 「いっぱい採って、美希たんやブッキーにも配ろうね!」 圭太郎「この辺りは松林だ。種類も豊富だが、毒を持つキノコもあるから気をつけるんだぞ」 ラブ 「あっ! これマツタケじゃない? 幸せゲットだよ!」 圭太郎「それはニタリ(マツタケモドキ)だな。高価ではないが、食べられるキノコだよ」 ラブ 「そうなんだ~、残念」 あゆみ「もう、ラブったら。そんな簡単に見つかるなら、あんな値段するものですか」 せつな「これもニタリなのかしら?」 圭太郎「……………………」 あゆみ「……………………」 【9月26日】 『ブッキーのダンス服』 祈里 「せつなちゃんすごーい! ダンスがどんどん上達してるね」 せつな「きっと、ブッキーが作ってくれたユニフォームのおかげよ」 美希 「わかってるじゃない! オシャレは人を成長させるのよね」 せつな「そういう意味ではないのだけど……」 ラ・祈(どちらにしても、あたしたちより上手になった理由にはならないと思う……) 【9月27日】 『選ばれないから愛されてる』 シフォン「プリプ~! シフォンといっしょにあそぼ~」 ラブ 「あたしと遊ぼうっ! こっちにおいで、シフォン」 祈里 「わたしと遊びましょ。いらっしゃい、シフォンちゃん」 美希 「アタシと遊びましょう。お着替えに絵本にヌイグルミもあるわよ」 せつな 「私と遊びましょう。シフォンの行きたい所に連れていってあげる」 シフォン「キュア~? らーぶぅ? いのり? せつな?」 美希 「気のせいかしら? シフォンの背中しか見えない……」 【9月28日】 『スウィーツな男』 タルト「タルトって名前、可愛いやろ? 甘いマスクのわいにピッタリや」 せつな「甘いマスクってなあに?」 祈里 「多くの人に好まれ、受け入れやすい顔立ちってことよ」 せつな「なるほど、フェレットにはピッタリね」 タルト「だ~か~ら! もう、動物ネタはええっちゅうねん」 美希 「他にも、考え方とか見通しとか、色々と甘いのよね」 ラブ 「もう! タルトをイジメちゃダメ。甘いって、優しいって意味もあるんだよ」 【9月29日】 『週末の過ごし方』 祈里 「週末はサンドイッチを持って、動物園に行こうかなぁ」 美希 「それはまたにして、冬物の新作見に行かない? 美味しい紅茶のお店も見つけたの」 祈里 「いいよ。じゃあ、来週はわたしに付き合ってね」 タルト「ここまで趣味も性格も違うのに、仲がええって信じられへんなあ……」 ラブ 「せつな、あたしたちもお出かけしよっか?」 せつな「ええ、いいわ。どこに行くの?」 ラブ 「せつなは行きたいところある?」 せつな「私は、ラブと一緒ならどこでも」 タルト「こっちは、えらいわかりやすいなあ……」 【9月30日】 『心の隙間』 せつな「四葉町に広がる夕焼けって、とっても素敵なのよ」 美希 「アタシは、小さい頃は、あんまり夕焼けが好きじゃなかったな」 せつな「確かに、なんとなく儚くて、寂しいような気がするわね」 美希 「それもあるけど、遊びの終わりを告げる合図のようなものだったから」 せつな「もっと遊びたかったの?」 美希 「みんなはお母さんが迎えに来てくれるでしょ。アタシのママは美容師だから、ね」 せつな「……家まで送っていくわ、美希」 美希 「チョット! もう平気よ、小さい頃のお話よ」 せつな「いいの! 私がそうしたいんだから」 美希 「ゴメン。せつなの方がずっと寂しい思いしてきてるのに」 せつな「私こそ平気よ、今の幸せなら負けてないもの」 美希 「アタシだって負けないわよ。でも、ありがとう」 新-441へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/156.html
今日のレッスンはせつなちゃんとの組み合わせ。 普段の立ち位置は美希ちゃん、せつなちゃん、ラブちゃん、わたし。 だから、滅多にないチャンスにちょっと・・・ 〝どきどき〟 「せつなちゃん、ちょっとイイかな・・・」 「ん?なぁにブッキー。」 わたしが作った練習着をせつなちゃんが着てくれてるだけでまた・・・ 〝どきどき〟 はぁ・・・。これじゃまたミユキさんに怒られちゃう。 夏合宿が終わってから、妙にせつなちゃんを気にしてるわたしがいて。 最近では意識しすぎてダンス練習も身に入らず・・・。 「どうしたのブッキー。ぼーっとしてるけど。」 目の前には不思議そうにわたしを見つめるせつなちゃん。 「わっ!あ、いや、その・・・」 かわいいよぉ。せつなちゃん、ほんとかわいい・・・。 〝ぎゅうぅっ〟 気が付くとわたしはせつなちゃんを抱きしめていた。 「きゃっ!」 突然の事にびっくりするせつなちゃん。わたしも何でこんな事しちゃったかわからず。 「あっ!しーーーっ。静かに・・・。ラブちゃんたちに声聞こえちゃうから・・・。」 無我夢中だったのかも。今しかない!と、言うか。 ほんの数秒の出来事だったんだけど、わたしにはもの凄く長い時間に思えて。 せつなちゃんの顔はその時見る事は出来なかったんだけど。 せつなちゃんの体を離すと、聞こうと思っていた事を思い出す。 「せつなちゃんて、ラブちゃんの事・・・」 最後は声にならなかった。わたしが聞いといておかしいんだけど、聞くのが怖かったと言うか。 「ラブがどうかしたの?それよりブッキー、何で私を抱きしめたの?」 問うどころか、逆に質問されてしまい、わたしは行き場を無くして。 「あっ、あの・・・、その・・・、ラブちゃんが羨ましいなぁと思って。」 せつなちゃんを独り占めしてるんだもん。私の本音が私の体を動かしたんだと思う。 「羨ましい?どして?」 わたしの感情など理解出来るはずも無く。せつなちゃんはほんとにピュアだから。 それもまた彼女の魅力。 「せつなちゃん・・・。時間のある時でイイから。たまには・・・、わたしも構って欲しい・・・」 叶わぬ想いであると知りながら、つい言葉にしてしまった事を後悔する。 と、同時に一粒の涙が目からこぼれた。 「ブッキー?何で泣いているの?」 「ごめんなさい。へんな事したり、聞いたりして。でもね、わたしだってせつなちゃんの事・・・」 難しい顔に変わったせつなちゃん。わたしさっきから何してるんだろう。せつなちゃんは困ってるのに・・・。 「私、どうしていいかわからないわ。でも、今日の練習、精一杯二人で頑張りましょ!」 難しい顔から一転、今度はその明るい笑顔と声にわたしは救われた。泣いてしまった事も反省。 「そーだよね。頑張ろっ!二人なら上手に出来るって私、信じてる!」 せつなちゃんは不思議な魅力を持った子。ラブちゃんよりも早く出会いたかったな・・・ ~END~ 4-281へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/399.html
42 :名無しさん:2009/10/31(土) 22 58 51 40 「ラブの優しいトコ、アタシ好きよ。」 「うん。わたしもだーいすき!」 「私、譲らないわ…」 「何を?アイス?」 「「鈍感すぎっ!」」 43 :名無しさん:2009/10/31(土) 23 06 08 美希「あれ?このアイスって……?」 ラブ「そう、いつものお店で買ってきた」 せつな「駅前の絶品アイスよ!」 タルト「ア、アイスやて……(汗)」 祈里「あ、タルトちゃん、タルトちゃんもアイス食べる?」 タルト「あかん……」 祈里「え?」 タルト「わいはもう、一生アイスは食べへんって決めたんや~(脱兎)」 祈里「ああっ、タルトちゃん!!」 ラブ「タルトったらどうしたんだろね?」 せつな「そうね、あんなにアイス好きだったのに」 美希(アンタらがトラウマ植えつけたんでしょーが!!) 44 :名無しさん:2009/10/31(土) 23 18 56 43 アイスのフタを開ける。 「ん?」 「あれっ?」 買ったばかりのはずなのに、 ラベルが剥がれている。 中身が、すり変わっている。 ひと口食べたブッキーがつぶやく。 「これ、スーパーで売ってるお徳用のやつだよ」 「さては...」 ラブの瞳から、光が消える。 「タルトぉぉ!」 ラブが走り出そうと部屋を出ると、 一枚の紙が置いてあった。 手に取る。 タルトの字。 「弱い者ほど相手を許すことができない。 許すということは、強さの証だ。 ガンジー」 「偉人の名言で、ごまかせると思ってるの...!」 せつなが指を曲げ、 手のひらを合わせようとした。 「せつな!落ち着いて!」 「せつなちゃん!それ昔の!」 「...あぁ、ちょっと取り乱しちゃったわ」 45 :名無しさん:2009/10/31(土) 23 23 47 43 「そう言えばアタシたち、まだそのアイス屋さん行った事ないわね。」 「うん。明日行こうよ美希ちゃん!」 「お熱いですなぁご両人!」 「熱あるの!?ダメよ外になんか出たら!お風呂長すぎたからよね…。ごめんなさい」 「あ、あはははは…。せつな心配性だから…」 (大変そうラブちゃん…) (頑張りなさいラブ。幸せゲットするのよ、自分の手で) 46 :名無しさん:2009/10/31(土) 23 26 48 45 ラブ「そういえば私達ってさ…」 美希「?」 祈里「?」 せつな「?」 47 :名無しさん:2009/10/31(土) 23 26 56 ノーザ「今日は不幸の蜜貯まらないと思ってたけれど・・・・。一滴落ちたわね、今。」 せつな(アイスアイスアイスアイスアイス…) 48 :名無しさん:2009/10/31(土) 23 31 00 「そろそろ寝よう」 「ブッキーそのパジャマ可愛い」 「美希ちゃんだって…」 「私オフトン美希とラブのの間ね」 「ずるいよ、せつなちゃん…」 「アタシはラブの隣がいいな」 49 :名無しさん:2009/10/31(土) 23 33 58 ブッキー(今しかない!勇気を出して!) ―――チェィィィンジ・プリキュアッ!!――― 3人「なんでよ!」 50 :名無しさん:2009/10/31(土) 23 37 55 46 ラブ「お笑い芸人みたいになってない、今日」 美希「ま、まぁね…」 祈里「くすくすくす」 せつな「今度こそクローバーフェスティバルは優勝よ!」 タルト(すごすぎんで、プリキュアはんたち。感動や…) シフォン(zzzzzzz) 51 :名無しさん:2009/10/31(土) 23 39 50 49 あゆみ「ラブ~、美希ちゃんと祈里ちゃんの分の布団、 持ってきたわよ~」 ガチャ ラブ「あ」 美希「え」 せつな「あ、おばさま、ありがとう」 あゆみ「……えーと、どちらさま?」 パイン「あ、あの、はじめまして……キュアパイン……です」 52 :名無しさん:2009/10/31(土) 23 46 36 あゆみ「私、夢でも見たのかしら?」 圭太郎「見間違えただけだろう。」 美希「こらっブッキー!」 祈里「つい勢いで…」 ラブ「またの名を?」 せつな「山吹祈里です。」 美希「あはははは。おっかしい~」 祈里「いやーん」 53 :名無しさん:2009/10/31(土) 23 50 50 48 ラ「こうして寝るのって久しぶりだね。」 美「そうね。でも、せつなが一緒だから初めてになるのかしら。」 ブ「何か不思議…。ずっと一緒にいたような感じだね。」 せ「私、みんなと出会えて本当に良かった。ありがとう…」 54 :名無しさん:2009/10/31(土) 23 54 19 「ところでラブとせつなはどこまで行った訳?」 「そうだね。ずっと気になってたんだけど。」 55 :名無しさん:2009/11/01(日) 00 04 21 54 せつな「どこまでって。どこまでもよね、ラブ。」 ラブ「にゃはははは」 祈里「うそ…」 美希「……。アタシ脱ぐわ!ブッキー!ここで」 ラブせつ「ちょ!」 56 :名無しさん:2009/11/01(日) 00 08 01 54 せつな「あら、行きつくトコはひとつじゃないの」 ラブ「せっせっせつな~っ」 美希(負けらんないわ…メラメラ) 祈里「いいなあうらやましい」 57 :名無しさん:2009/11/01(日) 00 18 37 せ「どしたのブッキー、顔真っ赤よ?」 祈「あ、うん。せつなちゃんたち大胆だなって…」 せ「大丈夫。愛はゆっくり育む物よ。」 祈「うん。」 ラ「何で二人がイイ感じなのさ。」 美「何コレ…」 58 :名無しさん:2009/11/01(日) 00 21 41 ラブ「美希たんのお布団に入ってイイ?」 美希「えぇっ!?」 ラブ「失礼しまーすゴソゴソ…」 美希「あっ…」 59 :名無しさん:2009/11/01(日) 00 24 24 57 ラ「こうなったら美希たん!!」 美「えっ?何?ちょっ!やめ!いやゃゃゃ」 祈「せつなちゃん…」 せ「ブッキー…」 60 :名無しさん:2009/11/01(日) 00 29 57 ブキ「こういうのスワッピングって言うんでしょ」 せつな「ブッキーったら物知りさんなのね。もっと色々教えてよ、あんなコトやこんなコトも…」 ブキ「ただの耳年増なの。テクならきっとせつなちゃんが上よ」 せつな「試してみる?」 ブキ「かああああっ」 美希「あん…そこ…」 ラブ「レロレロ」 61 :名無しさん:2009/11/01(日) 02 41 45 ウエスター「はっはっは!そこまでだプリキュア!」」 せつな「ウエスター!こんな時間に!?」 ウエスター「ふははは、イースよ、こんな時間だからこそ、だ! さあ、今日こそはインフィニティを頂くぞ!!」 そこまで口上を述べてから、ウエスターは気付いた。 部屋の中にいるプリキュア達が 揃いも揃ってあられもない姿だということに。 ウエスター「お、お前らーっ!人が真面目に インフィニティ奪いに来てるってのに 何を破廉恥なことをしてるんだーーーーーっ!」 せつな「アンタにだけは言われたくないわよ!! チェンジ、プリキュア以下略、ハピネスハリケーン!!」 その夜、桃園家に幸せの嵐が吹き荒れた。 62 :名無しさん:2009/11/01(日) 04 03 47 51 52 61 圭太郎(やっぱりいないじゃないか…) あゆみ(ええ…。それにしても仲良くくっついて寝てる事。くすっ) 63 :名無しさん:2009/11/01(日) 05 08 45 「…ZZZ…」 「…スースー…」 ゴソゴソ 「…んッ」 「へっへ~♪幸せゲット!」 「ちょっとラブ、何みんなの胸触ってるの?」 「あ、あれ?せつな起きてたの?わはー」 64 :名無しさん:2009/11/01(日) 05 32 44 「もうっ、ラブの浮気モノ!(ポカッ)」 「ご、ごめんごめん…」 「ねぇラブ、今日の予定はどうしましょうか?みんなでお出かけする?日曜日だし」 「うーんそうだね、どうしようかな」 65 :名無しさん:2009/11/01(日) 05 55 11 61 「……それで私の胸は触らないなんて、どういうことかしら?」 「イ、イヤ、せつなのはいつでも……ゴホン!せつなの胸は最後のお楽しみに取っておいて、 吹き荒れる幸せの嵐をを感じようかな、なんて……はは……」 「……実家(ラビリンス)に帰らせてもらってもいいのよ?」(……ニコッ) (う~、美希ちゃん、何か大変な事になってるよ……) (胸触られて目が覚めたけど……完璧に怒るタイミングを失ったわ……) 66 :名無しさん:2009/11/01(日) 07 15 30 祈「おはよう。」 美「おはよう二人とも。」 ラ「あ、おはよー」 せ「おはよう。」 ラ「今日ってどうしよっか?美希たんとブッキーはアイス屋さん行くんだよね?」 美「ええ。ラブたちは?」 祈「一緒に行く?」 67 :名無しさん:2009/11/01(日) 07 29 57 せつな「そうね。たーっぷりとラブにはごちそうしてもらいたいし」 ラブ「あ、あはははは…は」 ブッキー(せつなちゃん怒らすと怖いのね。) 美希(自業自得。大対、胸触るの上手すぎるのよねラブって。感じ…) ブッキー(美ー希ーちゃーん!) 68 :名無しさん:2009/11/01(日) 07 54 00 67 「どしたのブッキー。ほっぺたふくらまして。」 「ひゃっ!う、ううん別に怒ってなんかないのよ?」 「顔洗って来るー!」 「ア、アタシはシャワー!借りるわよ!」 69 :名無しさん:2009/11/01(日) 08 27 03 68 祈里「わたしたちで先に行っちゃおっか。」 せつな「いいの?びっくりするんじゃない?」 祈里「ふふ。朝ごはん食べたらそーっと、ね?」 せつな「知らないわよー。でもちょっと面白そうだけど。」 70 :名無しさん:2009/11/01(日) 09 25 06 ラブ「あれ?せつなとブッキーがいないよ」 美希「まさか…ひと足先にふたりっきりでデートに?」 ラブ「ふぇーん、せつなに置いてかれた~」 美希「泣かない泣かない。よしよし、いい子いい子」 ラブ「美希たんとふたりっきりも新鮮でイイ感じ…」美希「やだラブったら、顔がヤラシイわよ?」 71 :名無しさん:2009/11/01(日) 09 29 31 ブッキー「せつなちゃんのアイス美味しそうね」 せつな「食べる?はい」 ブッキー「間接キス…照」 せつな「何なら直接する?」 ブッキー「お願いします!ハアハア」 せつな「ブッキー…冗談よ」 ブッキー「アハハそうだよね、私信じてた!」 72 :名無しさん:2009/11/01(日) 09 56 59 「ねぇ、美希たん。腕、組んでもいいかな?……たまには」 「別にいいけど……腕組む振りして胸は触らないでよ?」 (ギクッ)「へへ……。なんかさ、恋人同士みたいじゃない?あたし達」 「なんか珍しいわね、ラブが甘えてくるなんて」 「!!!」 「あれ?せつなちゃんどうしたの?」 73 :名無しさん:2009/11/01(日) 09 57 01 70 美「でもね、アタシもたまにはラブとデートしたいなって思うのよ。」 ラ「そなの?」 美「嫌?」 ラ「好きになっちゃいそうで…」 美「ラブ…」 74 :名無しさん:2009/11/01(日) 10 00 07 72 せつな「ブッキー!」 祈里「はいっ」 せつな「二人でアイス食べるわよ!」 祈里「えぇェェェェ!?」 75 :名無しさん:2009/11/01(日) 10 03 48 美「なーんか変な空気になってない…」 ラ「あたしたち、やらかしちゃった?」 美「かも…ね…」 祈「止まってる。ラブちゃんとせつなちゃん。」 せ「軽くスイッチオーバーしそうだったわよ!ムキー!」 76 :名無しさん:2009/11/01(日) 10 13 14 ブキ「みんなで仲良く食べようか!せつなちゃんも笑って」 せつな「…それがいいかも。ヤキモチは置いといて精一杯がんばってみるわ」 ラブ「みんなで腕を組んで食べれば…ワハー、幸せゲットだよ!」 美希「うん、アタシたちって完璧よ!」 ブキ「私、信じてた!」 ラブ(美希たんとちゅーくらいしたかったな…) せつな「ラ~ブ~ぅ!」 ラブ「ニハハせつな愛してる!」 77 :名無しさん:2009/11/01(日) 10 22 04 ラブ「この後はどうしよっか。」 せつな「どんぐり王国とか。」 祈里「お買い物もいいね。」 美希「アタシの家でヘアケアしたりネイルするのもアリよね。」 78 :名無しさん:2009/11/01(日) 10 59 39 「いらっしゃい!お嬢ちゃん達。今日は天気も良くて、絶好の駅伝日和ってね。グハッ」 「やっぱりアイスの後はドーナツだよね♪」 「結局ここに来るワケね……まあいいけど」 「駅伝……って何?ブッキー?」 「え、えーと……(それにしても、カオルちゃん、ワザと言ってるのかしら?)」 79 :名無しさん:2009/11/01(日) 11 05 12 せつな「こんなにゆっくり出来る日曜日も久しぶりかも。」 ラブ「だねー。はむ」 美希「やっぱり平和が一番ね。もぐもぐ」 ブッキー「ずっと4人で暮らせたらいいのに。」 カオルちゃん「私生活でもタスキ繋いじゃってるの?グハ」 80 :名無しさん:2009/11/01(日) 11 12 10 79 タルト「いないとおもーとったらやっぱここかいな。」 カオル「幸せそうじゃない、4人共。青春だねー」 タルト「そやなぁ。毎日何かと忙しいやさかいに。」 カオル「若いって素晴らしいねぇ。」 ミユキ登場~オメガバーガーでウキウキ~ラストまでアカルン使うわよ。
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/898.html
今日は四人でショッピングに来ている。昨日のせつなの真意はわからないが皆の前ではお互い普通に接する。 歩き疲れてカオルちゃんの店でおやつタイム。 「ブッキー、一口ちょーだい」 「美希ちゃんパインジュース好きだよね」 「うん」 せつなが軽く訝しげに見てくるが他意はないのでスルーする。 「せつなあーんして」 「ちょっ、ラブ。あ、あー…ん」 素直にやる所がせつならしい。ブッキーは微笑んでいる。 「ラブラブだねー二人は。美希ちゃんあーんして」 ブッキーがあたしの口元にプレーンドーナツを近づけてきたのでパクっと食べた。 「ん、美味しい」 あたしがもぐもぐしているとラブがトイレと言い出した。続けてブッキーも。行儀が悪いなぁ。 二人はパタパタと近くのコンビニ目指して走りだした。 「はいせつな。あーんして」 皮肉を込めて爽やかに笑うあたしを、せつなはチラッと見て少し考えこんだかと思うと、あたしが差し出した抹茶ドーナツを手にとりあたしの口に指ごと突っ込んだ。 「むぐっ、ん?」 「なめて」 こんなキャラだっけ?顔色一つ変えず言うせつなにびっくりした。 くちゅとわざと音を立てて吸い付く。抹茶味かぁ……あんまり好きじゃない。人差し指を丹念になめる。歯で軽くかんだり舌を絡めたり。 いきなりすっとせつなが指をひいた。 「せつなの指美味しいね。刺激的だよ」 「そう」 せつなの頬に紅みが増したのをあたしはあえて気づかないふりをした。 そんな顔をされたら本気で手をだしてしまう。 ラブたちが帰ってくるまであたしはせつなを全く見なかった。 そろそろいい時間になってきた。いつものようにそのまま解散かと思いきや、ラブが家においでと言い出した。 「ごめーん、あたし今日は用事があって」 「そうなの美希たん。残念ー」 「ラブ私も今日中に返したい本があるから図書館行ってくるね」 あたしはせつなと二人予定外にあたしの家に向かう。 「図書館閉まってますが」 「ラブは閉館時間知らないんじゃない?……会うんでしょう」 「ねぇ、もう関わらないで。ラブのとこ戻って」 嫌よとせつなはがんとして引かない。 家に着いたのは6時。約束は8時だから多少時間はある。 「ほんとに襲っちゃうよ」 「美希を行かせる気はないもの」 ため息。どうしようか。せつなは一歩も引く気はない。 「わかった今日は行かない。あたしの負け」 疑いの眼差しで見ているせつなの前で断りの電話を入れる。 『――うん。ごめんなさい。風邪ひいちゃって。明日仕事でしょ、うつすと悪いから……寂しいけど、また今度会いに行くね……大好きだよ』 せつなはあたしの豹変ぶりに少し驚いていた。ベッドにボフッと倒れ込む。ベッドにもたれ掛かるようにせつなが床に座った。 「私は何するべき?」 「どーでもいい」 「なんで胸を揉むのよ!」 服の上からせつなの胸を触る。深い意味はない。暇になったから。 しばらく触っていると少しムラムラしてきた。 「ねぇ、中に手いれてい?」 「……」 無言を肯定ととり服の中に手を入れる。 「冷たっ……ん」 「あっためてー」 ちょっと興奮してきた。吸い付くようなもっちり肌に指を食い込ませる。 「ねぇ、固くなってきてるよ」 「うるさっ……もう、やっ」 指で頂点をきゅっと詰むとせつながびくっと腰を引いた。ベッドから降りてせつなの前に行く。 「ね、ほんとにいいの?やっちゃうよ」 おでこを合わせてわざと唇を近づけて囁く。せつなの目は鋭いが少し潤んで肌は上気している。 いけると思った。 だからこそ手を引いた。 「……美希?」 「お腹すいた」 すっとせつなから離れて立ち上がる。今日母親は外泊。 「あたし外でる。今から作るのめんどいし。せつなも帰りなよ」 「なんで……やめたの」 「今日はやる気でない。別に今から会いに行ったりしないから心配しないで」 そっけなく言う。せつなはあたしの服を掴んで離さない。 「離してよ」 「私は……私…は」 せつなは戸惑っているのだろう。だが今あたしが抱きしめちゃいけない。かといってこのまま帰してもせつなはラブに動揺を隠しきれないだろう。 別にまだ何もしてないから大丈夫だけど…… 帰したくなかった。 「ピザにする。食べてく?」 あたしが出ていかないことを理解し服を離す。あたしはピザを注文するためにリンクルンに手を伸ばした。 「美希がラフな感じだとなんか新鮮」 「家でまで気をはってらんない」 二人でピザを食べお風呂もはいり(別々に)今はまったりしている。せつなはラブにうちに泊まることを伝えたらしい。 あたしはパーカーのフードを被るとソファーにドカッと座った。あたしの貸したスウェット姿のせつなが隣に座る。 家の広いリビング。会話がないせいで居心地が悪い。 「……何を考えてるの?」 「わからない」 あたしは雑誌を手にとる。フェミニン系ではなくクール、カジュアル系がのっている雑誌。 「美希っぽくないわね」 「あの人たちは……人によってあたしに求めてくる服装の好みが違うからね」 特殊な例で言えばナース服とメイド服でやらされたのは本気で恥ずかしかった。すぐ脱がされたけど。 「美希は私にとって友達」 言わなくてもわかっている。ひと睨みして雑誌に目を戻す。 でもとせつなが続けた。 「おかしいよね。美希の側にいれることが嬉しいの……」 「…………」 そして美希が気になるとせつなは告げた。 妙に人間らしくなったなとおかしくなった。感情に戸惑うなんてイースの頃には考えられただろうか。 「あたしはラブを裏切る気はないよ」 「さっき手をだしかけたじゃない」 「……忘れたわ」 せつながあたしのフードを脱がす。視線が交ざる。 あたしはリンクルンに手を伸ばす。 ピッ 「もしもしラブ?まったく、せつながラブの惚気話ばかりするのよー」 『美希たん?あはは、ほんと。まっ、あたしとせつなは相思相愛だからねー』 「あーうざったーい、せつなに変わるねー」 にこにこしながらせつなにリンクルンを渡す、意地悪と声を出さず口を動かしてきた。 せつなとラブの会話を無視してテレビをつけた。バラエティー番組にチャンネルを合わせる。 部屋の空気とは場違いな明るい声がテレビから聞こえてくる。 ブッキーはラブの家に泊まっているらしい。 どうしようか。 せつながラブとの会話を終わらせようとした時電話を横取りした。 「ラブ、今からせつなが向かえに行くからブッキーと二人でうちにおいでー、うん、じゃあ後でね」 ピッ 「ちょっと!」 「行ってらっしゃーい」 ひらひらと手をふる。せつながあたしにまた文句を言いそうだったから口を塞いだ。 ほんとに襲っちゃいそうだから早く迎えに行って―― あたしの悲痛な叫びを理解したのか、せつなは何か言いたそうだったが大人しくアカルンと共に部屋から消えた。 あたしがせつなを好きになっちゃいけない。 ただやりたいだけならまだ諦められる。 ほんとに好きになったら引き返せなくなる――― あたしは台所に行き、ママのブランデーを一口飲んで気を落ち着けた。まったくとことん不良になったものだ。 初めて関係を持った22才のトップモデル。愛くるしさと綺麗さが売りの彼女はあたしに沢山のことを教えた。お酒が好きな彼女に何度潰れるまで付き合ったことか。 せつなが残した熱を冷ますように、忙しくて会えなかった彼女に久しぶりにメールを入れた。 「久しぶりね。私のこと忘れちゃったのかと思ったわ」 「そんなことないよ」 今日はせつなには何も伝えず会いにきた。彼女の自宅マンションはいつきてもいい匂いがする。 「会いたかったんだよずっと。忙しいから邪魔しちゃいけないと思って……」 「へー、可愛いこと言ってくれるわね」 あたしより少し身長の高い彼女はあたしの髪に口づけた。 「足、開いて」 男物のTシャツ一枚のあたしは素直に従った――― み-514へ
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/764.html
姉なせつなと妹なイースと【2】/そらまめ 「…なんだこれは?」 「あれ? 知らないのイース? これはね、ドーナツって言うんだよ」 ラブが抱える袋の中には様々な色のドーナツが入っていた。そのうちの一個を手に持ち、興味深げにいろんな角度から眺めるイース。しばらくしてパクッと食べだしたかと思うと、後は一言もしゃべらずもぐもぐと咀嚼していた。 一生懸命にドーナツを頬張る様子にラブは、「やっぱりドーナツは好きなんだね」と嬉しそうに言い、「まあ、私も最初に食べた時は驚いたし…」とせつなは苦笑いしながら見ていた。 「ふむ…なかなかだな…」 「でしょ? カオルちゃんのドーナツはそこらの黄色いチェーン店よりおいしいんだから!」 「やめてラブ! ドーナツのチェーン店とか数えるくらいしかない上に黄色とか言ったらもうピンポイントに攻撃してることになるわ!」 「気にしちゃだめだよせつな? こういうのは解る人だけほくそ笑んでればいいものだから」 「いやだからこれじゃ万人がほくそ笑んじゃうから…」 「お前たちは一体何の話をしているんだ…?」 「…で、これからどうする?」 ラブのその一言にさっきまでのおちゃらけた雰囲気を消し、スッと真面目になるせつな。イースも表情を硬くしたが、本日2個目のドーナツを食べることはやめなかった。 「イース…ちゃんと聞いてるの?」 「聞いてる聞いてる…」 明らかにどうでもよさそうな返事をして、こちらを見もせずにドーナツを無心に食べる姿にどれだけ気にいったのかと少し驚いた。両頬が膨らんでいる感じがなんだかハムスターみたい…だがこの勢いで食べられたのでは自分達の分までとられそうだったのでくぎを刺す。 「ドーナツは一人二個までよ。あと、これからあなたに関わる話をするってちゃんとわかってる?」 「うるさいな…もしゃもしゃ…小姑か…むぐむぐ…」 「食べながら話をするのはやめなさい」 「……ばーか」 「なんで唐突に馬鹿って言われなきゃいけないのよ…」 「普段もバカなんだからいつどこでバカと言おうが別におかしくないだろ」 「おかしいでしょ。主にあなたの頭が」 「私の頭がおかしいならオリジナルのお前の頭はさぞかし空っぽなんだろうな」 「……いい加減どちらが上なのかはっきりさせるべきね…」 「…そうだな。これ以上格下に色々言われるのはさすがの私も我慢できない…」 「はーいストップっ!! もう! 二人とも喧嘩ばっかりで全然話が進まないじゃん!! いい加減にしなさい!!」 「「す、すみません…」」 ラブのお叱りにせつなもイースもしおらしく謝った。 イースが来てから早数日、こんな風にせつなとイースは事あるごとにいがみ合い、その度にラブが叱りつけていた。そんな事ばかりしているせいで一向に話は進まず、未だにイースのこれからも決まっていない。幸運な事にあゆみにも圭太郎にも気づかれてはいないが、それも時間の問題じゃないかというのは三人の意見として一致している。 「それにしてもイース、あなたどこまで私の記憶を引き継いでいるの? ドーナツの事は知らなかったみたいだけど…」 「どこまでと言われても…ラビリンスにいた頃の事は知っていて…後はプリキュアに関しての事も解る。ただどうしてお前がラブと一緒に暮らしているのかは解らない」 「そう…ラビリンスの頃のデータと任務に必要な事を記憶させたのかしら…?」 「さあな。だが私は任務を言い渡された覚えはないし、こんな姿だし、どうしていいか解らないというのが正直なところだ」 「んー…疑問は尽きないねぇ…でも、イースの事はそろそろお母さんたちに話すべきだと思うんだよなあ」 「ラブそれは…少し難しいんじゃないかしら」 「ラブ、不本意だが私もこいつと同意見だ。こんな見た目だが私が普通ではないことは理解している。それに見知らぬ人間をそう何度も受け入れるとは思えない」 イースはさも当たり前のようにそう言った。こうやって自分についてでも客観的に捉えるところはせつなと同じだとラブは思う。こういう時のせつなは冷静で、その時々で自らが出来る最大限の事を考える。イースも同じだとしたら、割と正しい事を言うのだろう。でも、それでも譲れない。 「そうだな…出来れば人目に付かないような場所があればそこで過ごしたい。廃屋など近くにあればいいんだが…」 「だめだよイース」 これからのビジョンを考えて話していたイースに、強い意志のこもった言葉と眼差しが向けられた。せつなもその声音に少し驚いたが、ラブの顔を見ると困ったように笑った。こういう時のラブは自分の想いをしっかりと持っていて、その想いは誰にも譲らないと知っていたから。 「何だラブ、このままでは周りを巻き込まずに過ごすのは無理だと解っているだろ。それとも、施設か占い館に行った方がいいのか?」 「違うよ。そう言う事じゃない」 「ならなんだというんだ」 「イースはさっきどうしていいか解らないって言ってたじゃん。一人でどこかに行くことで解決しようとしないで。ひとりじゃできないならあたし達を頼っていいんだよ?」 「頼る…?…なにを言って…私に出来ないことなんて無い!」 思わず叫んだ。 ラブは何を言っているんだ。私一人で出来ないことなんてあるわけないだろ。いや、あっちゃいけない。誰かの助けを借りるなんてそんな事…私は完璧なんだ、完璧でないといけないんだ。でないと私は… 「イース、大丈夫よ」 せつなの手がポンと優しくイースの頭の上に置かれた。 「ここはね、失敗しても出来ない事があってもいいところなのよ」 「そん…な…」 失敗しても出来ないことがあってもいいなんて…ありえるのか…? 信じられないといった風に驚いてこちらを見てくるイースの頭を、せつなは優しく撫でた。 少し前の私も、そうやって驚いていたっけ。この世界に来て教えてもらうまで、自分も信じられなかった。 失敗する事は見放される事。ラビリンスにいた頃は苦手なものを作る事すら許されなかった。全てにおいて秀でていなければいけなかったから、助けを求めるなんて自分の弱みをさらけ出すようなこと出来るはずがなかった。 でも、ここは違うから。苦手なものがあっても、それを克服できるように頑張ればいい。失敗しても次がある。それだけだから。 「イース、あたしね、こうやってイースと話ができてすごく嬉しいの。だから、隠れながらとかじゃなく一緒に暮らせたらもっと幸せゲットできると思う。それに…イースとせつなと一緒のテーブルでご飯食べたいもん」 にっと笑いながら見てくるラブは、本当に裏表もなくそう思ってくれていると解る程に清々しかった。 「ラブ……ふん…」 イースはびっくりしたようにラブを見てつぶやいたが、すぐにそっぽを向いてしまった。 …あれ?もしかしてほんとに一人で居たいだけとかこの家が嫌だったのかな… と不安になったラブだったが、本当に控えめに、ラブの上着のすそをそっと摘まんでいたイースの手に気付き、嬉しくなって思わず抱きしめた。 「かわいいっ!かわいいよイース!!」 「うわっ?! ラブ、くるしい………っていうか痛い! 頭やめろ!!」 抱きしめられてやっぱり嫌そうに言いながらも嬉しそうにしていたイースだったが、先ほどから頭の上に置かれていたせつなの手が、撫でることをやめぎりぎりとイースの頭を締め付けていた。 「貴様! 今割と感動的なところだろ?! 空気を読め!!」 「甘いわねイース、私は空気を読んだ上でこうしてるのよ!」 「偉そうに言う事じゃないだろ! なんだその性格の悪さは!!」 「私はラブに関する事ならいくらでも性格悪くなれるのよ。覚えておくといいわ」 「うわー…」 「せつな、イースにあまり意地悪しちゃだめだよ。ほらこっちおいで、せつなもぎゅーってしてあげるから」 「ラブ…!」 「なんだこれ…」 明確なツッコミがいなかったのでしばらくイースもせつなもラブに抱きしめられました。 「さて、お母さん達にイースを紹介することになったわけだけど…ためしに自己紹介してみてイース」 「ああ…我が名はイース! ラビリンス総統メビウス様が僕!!」 「ちがう!」 スパーンとせつなの手がイースの頭に振り下ろされた。 「いったっ! おい!! なんでも暴力で解決しようとするのはやめろっ!」 「くっ…! ちょっと正論なのが腹が立つわ。でも、その自己紹介の仕方はおかしいでしょ。一般家庭で何する気なのよあなたは」 「自分を紹介しろと言ったのはそっちだろ。なにが悪いんだ」 「百歩譲って我が名はイースまではいいけど、その後がなんだか侵略者みたいじゃない」 「いや、侵略者だったじゃん実際…」 「ラブはちょっと黙ってて」 「はい…」 「お母さんとお父さんに紹介するんだから礼儀正しくが基本よ。普通に私はイースです。とかでいいのよ。後は私たちがフォローするから」 「なら最初からそう言え」 「あと、メビウス様が僕とか今後言ったら叩くわよ」 「なぜだっ?!」 「言うなら、ラブの僕って言っときなさい」 「せつなこそ何言ってるのっ?! びっくりだよ!? やめて! 町内に変な噂が流れそうっ!」 「ラブの…し、し、しも……べ…」 「イースもそんな練習しなくていいから!」 「ただいまー」 「あ、お母さん帰ってきたみたい。よし! じゃあ気を引き締めて行くよ二人とも!!」 「ええ!」 「ああ」 ――割愛―― 「…私お母さんの器の大きさに畏怖を感じるわ…」 「あたしもちょっと真似できそうにないや…」 「なんだかよくわからんうちに終わったな」 ―――――あゆみお母さんの寛大さで割とあっさりイースは桃園家の一員になりました。 旧37-3へ
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/311.html
翼をもがれた鳥 第18話――夢と幸せの継承者―― 芸能事務所の最上階、秘書室を抜けた先に目的の部屋はあった。社長室と書かれたプレートを確認し、ミユキは意を決してノックする。 格調高い内装に圧倒される。パールグレイの高級感のある絨毯、スノーホワイトの天井、落ち着いた木目調の壁。 そして一際目を引く、重厚な机と豪華な応接セット。 雲の上の人物の領域に、自ら足を踏み入れる。気圧されないように表情を引き締める。 トリニティのリーダーと言えど、本来は気安く話せる相手ではない。 大切なお願いがあった。しかし、プロデューサーにはまともに取り合ってもらえず、オーナーとの直談判に踏み切ったのだ。 「なるほど、話はわかった。だが活動休止などとても呑めない要求だ。トップである君たちが腰を引けば総崩れになる」 「でしたら、大型コンサートだけでも中止を! 前回のドームのことをお忘れですか!」 「奴らの襲撃の基準はイベントの大小ではない。街がこんな状態だからこそ、興行は続けなければならない」 「大勢のファンを、危険に晒してもいいと仰るのですか?」 「次のコンサートは四つ葉競技場で行う。舞台は平地で出入り口も多いし、警備と誘導も十分に用意する」 「……ひとつ、お願いがあります」 みんな、恐怖を堪えて生活している。四つ葉町を愛しているから。何よりも大切な、日常を守りたいから。 だからこそ地元出身のトリニティは、この街にこだわってイベントを続けてきたのだ。人々に勇気を与えるために。 そんなトリニティを応援しようと、ファンもまた恐れずにコンサートに参加した。もとより、確実に安全な場所などありはしない。 少し前までのミユキなら、そのことに胸を張っていられただろう。 危険を顧みず、夢と希望の光を絶やすまいと、誇りを抱いてダンスを踊っていられただろう。 だけど――知ってしまった。 大人たちが泣き叫び、恐怖に震える中で、歯を食いしばって戦っている少女たちがいることを。 誰からも理解されず、誰からも感謝されず、誰かにすがることもできないままに。 痛みを堪え、悲しみを胸に、小さな身体を倒れるほどに酷使して……。 それでも恨み言の一つも口にせず、ただ一心に、みんなの幸せを願って戦っていることを。 その子たちが言うのだ――あたしは幸せだよって。 やっと掴んだチャンスすら、戦いで失いながら。 いつか、わたしたちのようになりたいって。トリニティのように踊りたいって。 だから――わたしは……。 力に、なりたいと思った。 誰にも話すことができないのなら、ただ一人の理解者になろうと思った。 わたしのようになりたいと願うなら、教えてあげようと思った。 ダンスは、こんなに素晴らしいんだって。 あなたたちの夢は、必ず叶うんだって。この手で必ず叶えてあげるんだって。 退出を命じられた。話し合いを終えたミユキに徒労感が滲む。結局、わかってもらえなかった。 それも、当然なのだろう。事情を話すことができないのだから。もはや、強硬手段しかないのかもしれない。 悔しそうな表情で社長室から出てきたミユキに、レイカとナナが駆け寄った。 「ミユキ! 何があったの? 大丈夫だった?」 「もしかして、例の子たちのコーチの件で怒られたんじゃ?」 「そんなんじゃないわ。次の大型コンサートのことで発破かけられただけよ」 「そっか、今度は成功させたいよね」 「ミユキって、変なとこでニブいから心配だわ」 「ひどーい! そうだ、勝手に決めちゃって悪いんだけど報告があるの。あの子たちのことよ」 『翼をもがれた鳥――夢と幸せの継承者――』 新生クローバー初のダンスレッスン。不安そうに開始を待つせつなの表情が、更なる緊張で硬直する。 そこに現れた人物は、ミユキ一人ではなかった。 中央のミユキを挟んで、金髪のショートカットの女性がレイカ、山吹色のウェーブのかかったロングヘアーの女性はナナと名乗った。 それぞれが、あきらかに一般人とは異なるオーラを放つ。 知っている。知らないはずがない。この三人で――“トリニティ”なのだから。 せつなほどではないにしても、ラブたちの表情からも余裕が消える。新ユニット育成に挑む、ミユキの本気が感じ取れたからだ。 「東 せつなです。よろしくお願いします」 『ミユキさん、ナナさん、レイカさん、よろしくお願いします!』 「さっそくだけど、せつなちゃんの素養を見せてもらおうかしら」 「私たちのことは気にしなくていいわ。のびのびやりなさい」 「始めは気楽に、楽しんでいきましょうね」 スタンドポジションからエクササイズ。アイソレーションからムーブメント。そして、ターン。 今度はミユキたちが顔色を変える番だった。 ラブ、美希、祈里。ミユキが基礎を叩き込んだ三人すら超える、正確無比なモーションだった。まるで、幼い頃から磨き上げてきたかのように。 しかも、キレのある動きの中にも、しなやかさと可憐さが共存していた。 一言で表現するなら、ただ――美しいのだ。 「なるほど、教えたのは美希ちゃんね」 「あ、はい! でも、ラブやブッキーも一緒でした」 「うーん、それだけかしら?」 「そうね、動きはむしろミユキに似ているわ」 「そうかもしれません。ミユキさんのレッスンは以前から覗いていました」 見ているだけで身に付けられるならコーチなんていらないわ、とミユキは舌を巻く。 ダンスに限らず、目視で得られる情報など真実の一端にすぎない。 動作ひとつひとつの意味を、目的を、“意識”として集約しなければ、形だけ真似たところで魂の篭ったダンスにはならない。 (それを――よくもここまで。それに……) せつなの身体には、揺ぎなき心棒が備わっている。それは回転運動の多いダンサーにとって、一流とその他を分ける境界線と言ってもいい。 ラブたちですら、ようやく形を成しつつあるばかりなのに……。 せつなの軸の安定感は、ミユキたちにも比肩するものだった。 (格闘家からダンサーに、あるいはその逆に転向して成功した例は聞いたことがあるけど……) せつなの場合もそうなのかもしれない。一流は全てに通ずということなのだろう。 (だけど、動作が見事なだけに、返って自分の首を絞めることになるかもしれない) ラブたちの目が誇らしげに輝く。飛び級で追いつかれつつあるのに、悔しそうな顔一つ見せはしない。 美希と祈里の手が、自然にせつなにかかる。優しく労わるように、大切な人を慈しむように。 眩しいほどの絆を感じる。やっぱり、この子たちを選んで良かったと思う。 この子たちなら、今から口にする大きすぎる課題すら、きっと乗り越えられるだろう。 せつなには試練となるかもしれない。本当はゆっくり育ててあげたかった。 時間が無いのだ。クローバーには、トリニティすら超えてもらわなくてはならない。そうでなければ、やりきれないから。 (だから、今ここで、あなたたちの覚悟と可能性を見せてほしいの) まだ早い。そう思いつつも、勇気を出して告げることにした。 「そこまでよ。初日から通しレッスンまでできるとは思わなかったわ」 「あはっ! ミユキさん、せつなって凄いですよね!」 「せつなちゃん、頑張ったもの」 「せつな、完璧!」 「残念だけど、完璧にはほど遠いわ。あなたたちは気が付かなかったの?」 「そうね。動きは綺麗なんだけど、気持ちが出ていないのよ」 「ミユキ! レイカも、始めたばかりの子にそんなこと言わなくたって」 「どこが、いけなかったのですか?」 「三位一体って言葉は知ってるわね。私たちのユニット名でもあるんだけど」 「三人の心を一つにして踊ることですよね?」 「それじゃせいぜい30点ね」 「あたしの英語の点だ……」 「真面目な話よ、ラブちゃん」 「ハイッ!」 “トリニティ”の謳う三位一体とは、多元的な意味を持つ“ユニットの在り方”そのものだ。 一つは心・技・体、この三つを一つにすること。心とは情熱、技とはテクニック、体はスタミナやパワーを意味する。 せつなの場合は、この技と体が勝ち過ぎてダンスとしてのバランスを崩している。 例えば、如何に美しく踊ったところで、ロボットやコンピュータープログラムのダンスで人を感動させることはできない。 もう一つは、音楽とダンスと空間を一つにすること。この場合のダンスとは、仲間との一体感を含む。空間とは観客の意味でもある。 「みんな、どうしてダンスに音楽を使うのか考えたことある?」 「う~ん、楽しい音楽をかけたら、自然に体が弾みますよね!」 「アタシもラブと同じかな。表現力を高める手段だと思います」 「音楽にあわせて、身体を動かすのがダンスだと思ってました」 「音楽によって、時間の経過を掴んで動きを合わせるんじゃ?」 「まあどれも、外れてはいないわね」 もともと、ダンスと音楽は一つであったとミユキたちは考えている。 楽器を奏でる動きがダンスに発展したのか、あるいは踊りが何らかの音を奏でて音楽に発展したのか。 だから、ダンスを突き詰めていくことは、起源を遡って再び音楽と一つになることだと思う。 そして、その起源には必ず目的がある。それは大地に捧げる祈りであったり、喜びの表現であったり。 それが、空間だ。音楽と一つになり、仲間と一つになり、観客と一つになり、それぞれが与え合う関係を築く。 それが“トリニティ”の謳う三位一体であった。 「難しくって、よくわからないです」 「哲学的なお話で、具体的にどうしたらいいのか……」 「つまり、自分が演奏してるつもりで踊れってことですよね?」 「理解できなくても、頭に入れておくだけで違ってくるわ。美希ちゃんの考えで大体正解よ」 「私は、感情の表現が足りないってことですか?」 「そうよ。だから、せっかくのパワーも活かしきれてないわ。本当にダンスがやりたいって思ってる?」 「ずっと、ラブたちと一緒に踊りたいと思っていました」 「一緒にやれるんなら、ダンスじゃなくても良かったんじゃない?」 「それは……そうかもしれません」 「自分が幸せを感じられないダンスで、他人を幸せにできるわけがないわ」 何かを言いかけるラブを美希が止める。 打ちひしがれたせつなを後に、ミユキは本日のレッスンの終了を宣言した。 せつなの小さな肩が、力なく落ちる。普段は凛と張った真っ直ぐな背筋が、心なしか丸くなる。 昨日まで自信に満ちていた表情も、今は見る影も無かった。 (夢では、誉めてもらえたのにね) わかっている、これは夢ではないのだから。 決して覚めない代わりに、都合よく思い通りになるわけでもない。 モデルの撮影に巻き込まれた時の記憶が甦る。彼らもせつなの容姿を誉めつつも、被写体として認めることはなかった。 「君の笑顔からは喜びが感じられない」だったっけ。 「作り笑いでは誤魔化されない」そうも言っていたように思う。 暗澹たる気持ちになる。 気落ちしてるのはみんなも同じだった。 絶対に、ミユキさんもびっくりするはず。そう期待して望んだレッスンだったのに。 「心配ないわよ、成り行きで始めたのはアタシもブッキーも同じよ」 「うん、ダンスはやっていくうちに好きになればいいと思う」 「ミユキさんも、もうちょっと誉めてくれてもいいのに……」 「本当のことを言うとね、私には楽しむってことが何なのかすら、よくわかってないの」 ラビリンスには、音楽もダンスも無かったから……と続けた。 ダンスに限らず、全ての娯楽は必要ないとの理由で歴史ごと失われてしまっていた。 わからないから、憧れた。 わからないから、嫌悪した。 わからないから、壊すことができた。 そして―― わからないから、手に入れることができないのだろう。 それだけのことではないか、と自嘲する。 そこで、せつなはふと気が付く。 じゃあ、知ることができたら、守ることもできるんじゃないのか? そして―― 手にすることもできるんじゃないかって。 「それにしても、今日のミユキさんの様子はおかしかったよ」 「そうね、突然ナナさんとレイカさんを連れてきたり」 「もっと明るい口調で話す人だと思う。なんかピリピリしてたね」 「何か焦っているような……。もしかして悩みがあるのかも?」 「せつなはどう思う? って、わからないわよね。――せつな?」 「あっ、ええ、ごめんなさい。ちょっと考え事してたの」 せつなは、ふと可笑しくなった。考えてみれば、落ち込むようなことは何も起きていない。 得られない、叶わない、届かない。そんなこと、今日に始まったことじゃない。 今、ここにこうしていられること自体が奇跡なのだ。だったら、気落ちしてる余裕なんてあるはずがない。 精一杯がんばるって。そう――誓ったのだから。 「せつな、いるよね? ちょっといいかな?」 心配そうな表情で、ラブがせつなの部屋の扉を叩く。待ち続けても、返事はなかった。 隙間からも光が漏れてこない。疲れて寝ているのだろうか? おやすなさい。そう、小さくつぶやいた。 せつなの様子は、家に帰ってからもずっとおかしかった。 悩んだり、落ち込んだりしてると言うよりも、ずっと考え事をしてる感じだった。 食事も早々に済ませて、部屋に戻ってしまった。 ラブはしばらく考えた末に、あゆみに相談してみることにした。 何かの答えを出してもらえることを期待していたわけではない。ただ―― せつなのことを、自分と同じくらい心配してくれる人だから、伝えておくべきだと思えた。 「――と言うことがあったの」 「そう。せっちゃん、気持ちを抑えちゃうようなところがあるから」 「あたしに、何がしてあげられるんだろう……」 「時には、自分で答えを出すことも必要よ。だからミユキさんは問いかけをしたんじゃないかしら?」 「でも! やっと、一緒にダンスできるようになったのに」 「ラブ、信じて見守ってあげるのも愛情よ」 ゴロリ、と、またラブが寝返りを打つ。そろそろ日付も変わる時間、普段ならとっくに熟睡してるのに……。 早朝から自主練の約束があった。早く寝なくちゃと思うものの、せつなが気になって眠れない。 (疲れて眠ってるんだろうけど……) ラブは静かにベランダに出る。今夜も暑いし、きっと窓は開けて寝ているはず。 勘の鋭いせつなを起こさないように、慎重に部屋の中の様子をうかがった。そして、息を呑んだ。 (せつなが――いない!!) ラブは慌ててせつなの部屋に飛び込む。パジャマは丁寧にたたまれて、ベッドの上に乗せてあった。 急いで階段を駆け下りる。居間に飛び込んだところで、あゆみと鉢合わせた。 「おかあさん! せつながいないの!!」 「しぃ~、こんな遅くに大きな声を出さないの」 あゆみが、そっと庭の方を指差す。そこには、ジャージ姿で一人ダンスを続けるせつなの姿があった。 耳にはイヤホンを挿している。携帯性に優れるダンシングポッドの、もう一つの使い方だった。 「おかあさん、いつから?」 「もう三時間にはなるわね。すっかり時間を忘れちゃってるみたいよ」 「せつな、なんだか笑ってるみたい」 「わたしには、ラブやせっちゃんみたいな夢が持てなかったから、ちょっと妬けちゃう」 口元に微かな笑みを浮かべて踊るせつなを、そう言いながらもあゆみも嬉しそうに見守った。 「もしかしたら、ミユキさんは何もかもわかってるのかもしれないわね」 「うん……。せつな、精一杯がんばってね!」 三桁にも及ぶ回数の聴音、そして反復練習。 いや、練習とは言わないだろう、せつなが目指しているのは上達ではないのだから。 音楽――音の性質を利用した組み合わせ。 リズム(律動)、メロディー(旋律)、ハーモニー(和声) 無意味な音に、意味を持たせるもの。時間というキャンパスに描く、不可視の芸術。 調べることができたのは、こんなところだろうか。リズムで時間の把握をしていたこと自体は間違っていない。 足りないのは、受け入れる感情の働き。 みんなの言う、音楽に乗るという感覚はわからない。だけど、音の連なりには必ず意味があるはず。 まずはそれを――つかむ! 音に合わせて身体を動かす。 上手くやる必要は無い。誰も見ていない。誰にも迷惑をかけることがない。 額から、首筋から、身体のいたるところから汗が噴き出す。華麗な動作を決めるたびに、美しく飛び散る。 こんなに、何かに打ち込んだことがあっただろうか。何でも、やろうと思ったことは人並み以上にこなすことができた。 思うようにいかない。そんな不自由すら、愛しく感じられる。 無論、戦闘訓練は必死に励んできた。しかし、それすら義務だった。メビウス様のためだった。 今、生まれて初めて自分自身のために、自分の限界に挑んでいるのだ。ならば、これが自分の命を生きるということなのかもしれない。 「一緒にやれるんなら、ダンスじゃなくても良かったんじゃない?」 ミユキの言葉が思い返される。一緒にやれるから楽しい。その気持ちが間違っているとは思わない。 同時に、それだけじゃいけないことも理解できる。その喜びは、自分にしか感じ取れないものだから。誰にも、何も与えられないから。 一人で踊って、その上で何かを感じ取ることができれば―― 自分のダンスだって、きっと誰かの心に届くはず。 他人の服装に似たものを着た。他人のしぐさを真似た。他人の笑顔を見て笑い方を知った。 ダンスもそう。優れた動作を真似て踊った。カタチだけ整えれば、それで、みんなと同じものが手に入ると信じて。 何一つとして、自分から生まれたものがない。全ては借り物だった。激しく焦がれたが故に、うらやましいと思ったが故に。 モデルでも、ダンスでも、きっとそこを見透かされたのだろう。 だから、ささやかでいい、自分だけの幸せを感じ取る! これは仲間も観客もいない、たった一人のコンサート。 ここから始めようと思った。自分というものが無いのに、他人と一つになんてなれるはずがないのだから。 何時間経過しただろう。自然と動作を覚え、意識して動かす必要が無くなった。 音に反応して、音に溶け込んでいく。身体が意思から離れて、感情の波に乗る。脳を介さずに、直接心が動かしてるような感覚。 それまで感じ取れなかった景色が飛び込んでくる。 夜空に星が美しく輝く。心地良い風が頬を撫で、柔らかい土が優しく衝撃を受け止める。 (そうね、一人じゃなかった。世界はこんなにも優しくて――) 気持ちがいい。すがすがしい。心が弾む。もっと、もっと踊っていたい。 これが――楽しいって気持ち? (ううん、きっと、もっと先がある。でも、それは――) 曲が終わり、身体が痺れるような感覚が降りてくる。膝が震え、立っていられなくなる。 常人離れした体力を誇るせつなに、ようやく訪れた限界だった。 仰向けに倒れこんだ。草の匂い、土の匂いが鼻をくすぐる。 イヤホンを外して、そっと風のささやきに耳を澄ませた。 「せつなっ! 大丈夫!?」 背中ごしに、地面から伝わってくるラブの足音。見られていたことに気が付いて、恥ずかしさを覚える。 手を引いて起こされて、そのまま抱き寄せられる。汗で汚してしまうと躊躇したが、抵抗する体力も残っていない。 「ラブ、ほんの少しだけど、ダンスの喜びがわかったような気がするの」 「うん、見てたよ。せつな、笑ってた」 「その気持ちでみんなと一緒に踊ったら、もっと楽しいと思うよ」 「ええ、この先は一緒に知りたい」 だから、明日が楽しみね。そう言ってせつなは笑った。ラブがこれまで見た中で、一番の笑顔だった。 せつなにとって、二度目のミユキのコーチによるレッスンが始まる。準備運動と基礎練習の後、通しで一曲踊り終える。 この数日で、せつなのダンスに変化があったのだろうか? ラブたちには何の違いも見つけられなかった。 しかし、せつなの表情には迷いが消えていた。自信――でもない。 しいて言えば、強い意志。決意のようなものが感じられた。 「ギリギリだけど、合格ってところね」 「やった! せつなっ!」 「やっぱり、せつなって完璧!」 「おめでとう、せつなちゃん!」 「こ~ら、はしゃぐのは早い! もう一週間しかないのよ。ビシバシしごくから覚悟しなさい」 「一週間しかって、何までにです?」 「そっか、言ってなかったわね。来週のコンサートで、クローバーにはトリニティのバックダンサーをやってもらうわ」 『えぇ~~~~!!』 と言っても一曲だけだけど、それでも数千人単位のファンの前で踊るのは良い経験になるはずよ。 そう続けるミユキの言葉をちゃんと聞いていたのは、事の重大さが理解できなかったせつな一人だけだった。 真っ白になった頭から回復したクローバーは、これまで以上に必死になって練習を続けた。 そんなクローバーの姿を見ながら、ミユキは寂しそうにつぶやいた。 (頑張りなさい。あなたたちにとって最初の晴れ舞台。そして、わたしの最後の舞台になるのだから) ささやきのような小さい声。 もちろん、みんなの耳に届くはずはなかった。ただ一人の、例外を除いて―― 先日と打って変わって、テンションの高いミユキのレッスンが終了した。 期待と興奮の入り混じる熱気の中、せつなのざわつくような不安が膨らんでいく。 聞き違いかもしれない。違う意味かもしれない。盛り上がっているみんなに、ここで話すのは躊躇われた。 でも、本当に想像の通りならば、ミユキの不安定とも取れる様子にも納得がいく。 ラブにだけでも相談しないと! 遅れると取り返しのつかないことになるかもしれない。 しかし、帰り道も、食事の時にも、舞い上がるように嬉しそうなラブを見ていると……。 とても――口にすることができなかった。 せつなは机から一束のトランプを引っ張り出した。ラビリンスの占い館から、ただ一つ持ち出せた私物。 なんとなく、ポケットに入れたままにしてあっただけだけど。 (もう、二度と占いなんてしないつもりだったけど……) トランプとはジョーカー(切り札)の意味で、本来の名はプレイングカードという。タロットの源流にして、カード占いの生みの親だ。 僧侶のハートをラブに。貴族のスペードを美希に。商人のダイヤを祈里に。農民のクラブをミユキに配置する。 トランプの数の合計は九十一。四スイート分にJを加えて三百六十五。太陽の周期、一年を意味している。 四スイートは季節も表現する。スペードは春、クラブは夏、ハートは秋、ダイヤは冬。 せつなの集中力が極限まで高まる。いよいよ運命の一日を導き出す。 シャッフルされた五十二枚のカードから、一つの季節の単位の十三枚のカードを抜き出す。 更に三枚を選び、表に向けて並べる。残り一枚、運命のカードはクラブのクイーン。四枚を足した数は二十三だ! 夏の二十三日、今月ならばコンサートの日と一致する。 審判の一枚を引き、数の強さで運を知る。 息を呑む。引いたカードは、四スイートのいずれでもないジョーカー。 切り札、そして、計ることのできない運勢。関わる中心人物は、占い師――せつな自身だ。 せつなの占いとて、百発百中ではない。それにしても出来すぎだった。ただの偶然と考える方が不自然だ。 この日に、間違いなく何かが起こる。きっと、良くない事が―― (ミユキさんの住所、聞いておいて正解だったわね) もう夜も遅い、訪ねて行くのは非常識だろう。しかし、普通に望んで会える相手でもない。 確実に自宅にいると思える、今こそがチャンスだった。 コツン――コツン――コツン 二階の灯りがミユキの部屋だろうと見当をつける。柱の影に隠れるようにしながら、窓に小石を投げつける。 こんな事なら、携帯を買ってもらえばよかったと思う。通話する相手がほとんどいないとの理由で断ったのはせつなだった。 幸いにも予想は的中し、ミユキが窓を開ける。手を振って、会いたい意思を伝えた。 パジャマの上からカーディガンを羽織った格好でミユキが姿を見せた。 「どうしたの? せつなちゃん。こんな夜遅くに」 「非常識なのはわかっています。お休みのところすみません」 「それはいいわ。話したいことがあるんでしょ?」 「ラブたちから、プリキュアになることを拒んでいたと聞きました。その考えが、変わったんじゃないかと思って」 「はっきり言ってくれていいわ」 「次のコンサートで、トリニティを引退するつもりじゃないかと疑っています」 ミユキが驚愕して息を呑む。その一瞬をせつなは見逃さなかった。鋭い眼光でミユキを見据える。 「どうして、そう思ったの?」 「私は占い師です」 「そう。なら、その占いはハズレよ。もう帰って寝なさい」 「私の目を見て、もう一度言ってください」 「プロのダンサーはね、掛け持ちでプリキュアやれるほど甘くはないのよ」 「私も、ラブに言ったことがあります。二兎を追う者は一兎も得ずと」 「そうね、両方できると信じているラブちゃんたちの夢を壊したくはないけれど」 「ダンスを選んでください! これ以上……誰かが不幸にならなくてもいいはずです!」 「プリキュアは四人、そうでなくてはこの先の戦いは切り抜けられない。あなたが一番わかってるんでしょ」 「私がいます! イースが四人目の代わりに! 一対一なら、ラブたちの誰にも負けない自信があるわ!」 熱くなって、せつなの丁寧語が乱れる。拳は硬く握られ、瞳は睨みつけるほどに強くミユキを射抜く。 しかし、ミユキはしばらくせつなを見つめた後に、大きく首を振った。 「イースの戦い方では、誰の幸せも守れないわ」 「っ――戦いなら、私の方が経験は上です。どうしてそう言えるんですか」 「守るために戦っていないからよ。あなたには、大切な人たちの顔が見えてない」 「ミユキさんの言うことはよくわからない。だけど、私は命に代えてもラビリンスを倒してみせます」 「やっぱり、イースには任せられないわ。あなたこそダンスに専念して戦いから身を引きなさい」 「私は、戦うために生きることを許されていると思っています」 「もう、お話は終わりよ。この事はラブちゃんたちには秘密にしておくこと。いいわね?」 「約束――できません」 「バックダンサーの件は、またと無い贈り物なの。邪魔はさせないわ。せつなちゃんは、わたしに従う義理があるはずよ」 「――わかりました」 「せつなちゃんにとっても、きっと大きな意味を持つわ。練習、頑張りなさい」 ミユキはそう言って背を向けて歩み去った。もう話すことは無いといわんばかりに、一度も振り返らずに家に入る。 せつなは悔しさのあまり、血が出るほどに唇を噛みしめた。 侮辱されたから――ではない。止めることが、できなかったから。 (イースの戦い方では、誰の幸せも守れない) その通りだと思った。結局、自分に出来ることは、不幸を撒き散らすことだけなのかもしれない。 打ちひしがれて帰路に着くせつなの姿を、上空からそっとアカルンが見つめていた。 第19話 翼をもがれた鳥――ファイナル・コンサート――へ続く
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/356.html
第25話 すべてを包む空 パジャマ、下着、洗面用具。タオルなんかは美希が貸してくれるだろう。 明日の着替えはどうしよう、と少し迷った後せつなは赤いカットソーとミニスカートを入れた。 今着てる服も帰宅して制服から着替えたばかり。後は夕飯を食べてお風呂に入るだけ。 このまま明日も着れば良いかとも考えたけど、同じ服を続けて着るなんて美希に だらしないと言われそうだから。 クローゼットの中は赤系の暖色がほとんど。後はそれに合わせた定番。 寒色系はほとんど無い。 せつなは赤が似合うよね! せっちゃんは赤が好きよね。 いつの間にかそう言う事になっていた。 でも、似合うってどう言う意味なんだろう。 自分が好きで、尚且つ他人からも好感を持たれる、と 言うことは理解出来る。 自分にとっては赤がそうなんだろうか。 特に赤い色を好んでいるつもりはなかった。 でもいつ頃からだろう。 赤い色を当てると、血の気の薄い青白い肌がほんの少し明るく見える気がしたから。 せつなは窓から射し込む夕日に手を翳す。 日の光を浴びる事なく育った肌は向こうが透けて見えそうな頼りなさだ。 (せつなの肌って本当に綺麗……) ラブはそう言って誉めてくれる。 ラブだけではない。 こちらに来てからは顔を合わせる大抵の人から肌の白さを驚かれた。 綺麗、なんだろうか。 こんな血が通っているのかすら怪しそうな冷たい色が。 自分から見れば、ラブの桃色がかった健康的な肌の色の方がよほど美しいと思うのに。 今着ているのは赤みがかった深い紫。 ボルドー、と言う色だと美希が教えてくれた。 熟れた葡萄の色。秋の実りの色だと。 (熟れたてフレッシュだもんね) そう言って美希が選んでくれた服。 何か少し意味が違う気がしたが、ただ笑って試着した。 着てみると深く暖かい色味が顔色を柔らかく映してくれているように思えた。 いつも美希は赤以外の色を選んでくれる。 赤はラブや他の人も薦めるから。 他人と同じチョイスをするのはモデルのプライドが許さないらしい。 それでもやはり、寒色系は選ばない。無意識なんだろうか。 多分、違う。 美希は明確な根拠は分からなくても、せつなが白すぎる肌を 気にしているのを感じているのだろう。 美希は、誰よりも人の気持ちに敏感だから。 美希の様子が気掛かりだった。 突然の電話。遠目に見えた力無く項垂れた姿。 美希らしくない。いつもしゃんと背筋を伸ばし、常に完璧な笑顔を振り撒いている美希が。 まるで迷子のように心細そうに見えたから。 まだ主の気配の無い隣の部屋。 ラブに掛けた電話は留守録になっていた。 美希の家に泊まる、と送ったメールの返信もまだ来ない。 (………何か、あった…?) 唐突な美希の誘い。連絡の付かないラブ。 せつなの脳裏にもう一人の顔がちらつく。 (美希は、私とラブを今日は会わせたくなかった……?) 一緒に暮らしているのだから、引き離そうとするならどちらか一方を 外泊に誘うくらいしかないだろう。 美希はラブではなく、せつなを誘った。 考え過ぎかも知れない。しかし人がいつもと違う行動を起こす時は、何かしら理由がある事がほとんどだろう。 自分達の関係。美希の位置。ここ最近のラブの様子。そして、一週間前の買い物。 パズルのピースを嵌めるように、せつなは思考を組み立てる。 それぞれの性格や行動パターンを忠実にトレースして行けば、 かなり正確な答えに行き着けそうな気配を感じる。 しかしせつなはそこで考えを止めた。 答えになんて、行き着かない方がいい。 すべてを知る事が正しく幸せだとは限らない。 そのくらいは、もうせつなにも分かっていたから。 先回りして用意した結論なんてほんの少しの状況の変化でゴミ同然の値打ちしか無くなる。 それに自分にとっての最善が他人にもそうだとは限らない。 頭を切り替え、姿見に全身を映す。 そこにいるのは黒髪の少女。 ボルドーの膝上までの長めのトップス。脹ら脛までの黒の細身のパンツ。 こう言う格好の時はベルトをするとアクセントになるって美希は言ってたっけ。 美希は服を買う時は色々と小物も選んでくれようとした。 小物で変化を付けると少ない服でも印象が違って見えるから、って。 アクセサリーなんかもたくさん薦めてくれたけど、結局せつなが買ったのは シンプルな黒いベルト一本だけだった。 (もう!せつなも女の子なんだからもっとお洒落しなくちゃ) (そんなに一度に使いこなせないわよ) 美希みたいにセンス良くないし。 そう言ったのは半分本当で半分は嘘。 ラブに見せられたファッション雑誌、テレビ、学校の友人、周りの人々。 観察していれば、どういった格好が今の流行か。好まれる服装か、と言うのは大体分かる。 個性的なお洒落は出来なくても、無難に纏めるくらいなら悩まず組み合わせる 事くらいはもう出来る。 でも、目立ってはいけない。それが習性として身に染み付いていた。 せつなにとって自分が美しいかどうかなどは問題にした事もなかったが、 自分がこちらの世界では好まれる容姿だと言う事は知っていた。 だってそれも、こちらに潜入する為の条件の一つだった。 人は好ましく思うものには警戒心が薄れる。 そして美しさや可愛らしさは大抵の人間にとって好ましく映るものだ。 この世界に馴染みやすく、溶け込みやすい見た目。 しかし、必要以上に優れた容姿を誇示してはいけない。 目立てばそれだけ人目を集め、動き難くなるだけだ。 そう言った魅力は籠絡する対象にだけ発揮すればいいのだから。 (馬鹿よね。本当に…) 結局、手玉に取るつもりが自分が落とされてしまったのでは目も当てられない。 愛された事の無い人間が、溢れるほどの愛情を浴びて生きている人間を 騙し通す事など出来なかった。 本物の愛情しか知らない人間にどれほど精巧な偽物を用意したって メッキが剥がれるのは時間の問題でしかなかった。 張りぼてが壊れてしまえば、偽物しか知らない人間はなす術もなく本物の輝きの 眩さに目を細める事しか出来ない。 馬鹿な子。そう蔑む事で保っていたプライドなど芥子粒ほどの価値も無かった。 鏡に銀髪の少女の面影を重ねる。 あの頃、ラブ達と接触した後は必ずこうやって鏡で自分の姿を確かめていた。 スイッチオーバーした姿。銀色に流れる髪。深紅に光る瞳。メビウス様が僕、イース。 これが本当の自分なのだ、と。せつなは所詮欺く為の仮初めの姿にしか過ぎないのだ、と。 せつなとイースに見た目に明確な違いがあって良かったと心底思った。 イースに戻っても黒髪のままだったら。もしくはせつなも銀髪のままだったら。 クラインに寿命を宣告されるまでもなく、自分を見失い、狂っていただろう。 イースとしてこちらに来たばかりの頃、目先の事に囚われ享楽的な生を楽しむ人々を 愚かしい生き物だと見下していた。 幸せなどと言う、曖昧な願いを躊躇いもなく口に出来る生ぬるい世界を呪った。 しかし、今なら少し分かる。幸せを願うのは自分の為だけでは無い。 自分も含め、周りすべてが幸せでないと意味がない。 少なくとも、せつなのよく知る人達はみんなそうだ。 だから、ラブが幸せになる為にはせつなも幸せでなければいけない。 そして、せつなの幸せには美希や祈里がいなくては成り立たない。 階段を降りて台所を覗く。立ち込める湯気と夕飯の匂い。 鼻歌混じりに鍋をかき回すあゆみの姿。 せっかく用意してくれていたのに食べずに出掛けるのが申し訳なかった。 「…お母さん」 「あら、せっちゃん。支度出来たの?」 「……その、ごめんなさい。夕ごはん…」 あゆみはせつなの頭をポンポンと撫でる。 まるで小さな子供にするように。 少し前まではこんな何気無い仕草にも随分戸惑ったものだった。 どう反応すれば良いのか分からなくて。 あゆみの方こそ困惑するせつなの扱いに困っただろうに、そんな事は 今までおくびにも出さなかった。 それが大人で、母親、と言うものだと分かるまで、触れられる度に緊張していた。 「ま、今夜はカレーだったし。冷凍しておけば一回分楽が出来るわね」 冗談めかして悪戯っぽく笑うあゆみに、せつなもつい笑みを溢す。 「今回は特別。次からはちゃんと事前に報告よ?」 「はい」 生真面目な仕草でペコリと頭を下げるせつなの髪にあゆみの指が優しく絡まる。 「せっちゃんは美希ちゃんと気が合うのね」 「……気が合う?」 「あら。そう思わない?」 「よく、分からない。でも美希は大好きです」 「ならそれでオッケーよ」 せっちゃんは真面目ねえ。難しく考える事ないのに。 コロコロと朗らかな声であゆみは続ける。 「せっちゃんは美希ちゃんと仲良し。美希ちゃんもそう思ってるから誘ってくれるんでしょ?」 だったらそれが気が合うって事なのよ。 ふんっ!と腰に手を当て胸を張るのがラブそっくりで思わず吹き出してしまう。 本当によく似た親子だと嬉しくなる。 「じゃ、行ってきます」 「はい、いってらっしゃい」 レミさんと美希ちゃんによろしくね。 玄関でもう一度、行ってきます、と声を掛ける。 ドアを開ける背中に、いってらっしゃい、の声が追い掛けてくる。 行ってきます。 いってらっしゃい。 ここに帰って来る、約束の言葉だ。 ただいま。 お帰りなさい。 そう、迎えて貰える。 その事実に慣れ、受け入れられるまでにどれくらいかかっただろう。 こんな温かな場所を自分の棲み家に決めてしまったら、もう他の場所へは 行けない気がしたから。 温かさに慣れてしまうのが怖くて、お母さん、とも中々呼べなかった。 「おや、せつなちゃん。こんな時間からお出掛けかい?」 「美希のところでお泊まりなんです」 商店街の中を歩くと次々と声がかかる。ラブと一緒でなくても。 桃園さん家のせつなちゃん。もう皆が知っている。 自分の行動を他人が見ている。そして、それが人伝に遠くへ伝わる。 水に落とした小石が波紋を広げるように。 こちらの世界に来てからも中々拭えなかった違和感。 ここでは、自分は何の力もない子供だと言う事実。 そして子供の自分が何か不始末をしでかせば、それは即座に庇護者である 桃園夫妻の責任になると言う事。 両親だけではない。共に暮らしているラブ。いつも一緒にいる美希や祈里にまで影響が及ぶ。 そして、それがここでは考えるまでもない常識だと言う事。 人と人とが太い幹から細かい枝葉に至るまで繋がり、響き合っている。 一人の行動が、その一人の属しているあらゆるカテゴリー、 家族、友人、学校、住んでいる場所に大なり小なり影響を及ぼすと言う事。 (こちらの人は、怖くないのかしら…) せつなは恐かった。自分の所為で両親やラブに迷惑が掛かったら。 美希や祈里にまで波紋が及んだら。 考えるだけで身が竦む思いなのに、周りはその事実を平然と受け流しているように感じた。 負担に感じているようにも思えない。 (あったり前じゃん!家族なんだし!) 親が子供を守るのは当たり前。 子供が親に守って貰って、更に我が儘を言うのも当たり前。 我が儘が過ぎて叱られたりもするけど、すぐに仲直り出来る。 そして、それも当たり前。 友達だって同じ。喧嘩したって、迷惑かけたってお互い様。 悪い事したって思うなら、次は自分が助けてあげればいいんだよ。 ケロリと言ってのけるラブにせつなは茫然とした。 愛情を受けて生きていくと、そんな重い事実が当たり前になってしまうのか、と。 同時に妙に納得した。 だからラブはあんなに命が大切なんだ、と。 愛されてるから。 愛してるから。 失えば、取り返しがつかないから。 ラビリンスでは常に誰もが一人だ。メビウスの僕である以外のものは存在しない。 誰かがいなくなっても、ラビリンスに、メビウスに取って不必要だから消えていく。それだけ。 だから命は虫けらよりも軽かった。 だからこそ逆に気楽だったのだ、とせつなは皮肉に思う。 どんな不始末も、どんな失敗も、己の身一つで済んだ。 自分以外のものを何一つ持っていなかったから。 命以上のものを失う心配なんてしなくてよかったから。 (重いわよねえ、まったく……) それは、何と甘美な足枷だろう。 せつなは甘く微笑みながら胸に収めた傷を撫でる。 塵よりも軽かった我が身が、今は地に引き倒され、身動き出来ないほどの 重りに繋がれている。 その一つ一つの重りの何と愛しいことか。 ラブの手を取ったその時から、せつなはこの世界のシステムに組み込まれた。 何度消えてしまおうと思ったか数知れない。 このまま自分がいる事で皆が傷付くなら、黙っていなくなってしまいたい。 しかし、それでは何の解決にもならない事がやっと理解出来たから。 せつなが消えてもせつなのいた痕跡は消えない。 一度関わり、想いを交わしたら、相手の中に自分が宿る。 すべての記憶を消し去らない限り、逃れる事は叶わない。 (もう、怖くないから…) いくら傷付き血を流しても、癒える傷なんか怖くない。 どんな痛みも、抱き締めてくれる腕があるならやがて引いてゆく。 傷が開けばまた塞げばいい。 痕が残っても恥じたりはしない。 自分で選んで、自分で決めた。 それを誇りたいから。 逃げない。 逃げる場所が無いからではない。 ここが、自分の場所だから。 そう、顔を上げて生きて行きたいから。 今、自分に出来る事。 美希が会いたいと言ってくれた。 多分、決して穏やかではいられない心の時に。 そして、笑顔を向けてくれた。 美希に何を求められているかは考えないようにしよう。 今夜、二人で何を話すのか。まだ何も分からない。 辛く悲しい話かも知れない。 また深く傷付くかもしれない。 まったく予想も出来ない事を聞かされるかも知れない。 もしくは、何事もなく、楽しくお喋りして朝を迎えるかも知れない。 (わたしは、どれでもいいわよ。美希…) だって、何も変わらないから。 せつなは空を見上げる。 太陽は一日の終わりを告げる濃く滲んだ朱色の光を靡かせている。 既に空には幾つかの星が瞬き、薄く磨いだナイフのような月も浮かんでいる。 瑠璃色からブルーグレー。だんだん黄色味を混ぜながら朱色へ向かってゆくグラデーション。 なんて贅沢な時間なんだろう。 太陽と月と星。そのすべてを包んだ空が目の前に広がっている。 青空でも夕焼けでも空はいつでも空だ。 どれほど欠けても月はまた満ちて来る。 曇っても沈んでも、太陽はまた昇る。 真昼の星は見えなくても確かにそこにある。 どれか一つでも欠けてはいけない。 欠けることなんて、想像出来ない。 姿が変わっても。色が違っても。昨日とは輝く場所は違っても。 太陽は太陽であり、月は月であり、星は星であり、空はそのすべてを抱き締めている。 そして、何があっても、どんな嵐でも、消えて無くなる事だけはあり得ないのだから。 第26話 神様の名前へ続く